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子どもの睡眠障害

子どもの睡眠時間

子どもにとって必要な睡眠時間は、大人と大きく異なります。目安として、1-2歳で11-14時間、3-5歳で10-13時間、6-13歳で9-11時間、14歳-17歳で8-10時間の睡眠時間を必要とします1)。一日の半分近くが、睡眠時間となるのです。
今、日本の子どもたちの睡眠は危機に晒されています。
本邦では成人と同様にこどもの睡眠時間が少ない事が問題となっており、海外の研究でも日本人の子どもは世界各国で最も少ない睡眠時間であったことが報告されています2)。学校や塾、スマートフォンなどのソーシャルメディアの影響など、日本ならではの問題を背景としていると考えられます3)。
子どもの睡眠障害は、わが国の国民病とも言えるかもしれません。

子どもの睡眠障害の症状

子どもたちの訴える睡眠障害の症状としては

  • 眠れない
  • 寝すぎる、眠い
  • 朝起き、夜眠ることができない
  • 寝ている間の異常な行動

に分かれます。

この症状はそれぞれ

  • 不眠症 (乳児・幼児の夜泣き、学童・思春期の不眠症など)
  • 過眠症 (睡眠不足症候群、ナルコレプシーなど)
  • 睡眠覚醒リズム障害 (夜型睡眠など)
  • 睡眠時随伴症 (夢遊病、夜驚症、むずむず脚症候群など)

にあたります4)。
上で述べた目安の時間はあるものの、子どもの睡眠のリズムは個人差が大きく、一概に正常値があるものではありません。
ナルコレプシーだと考えられていたのが、精密検査の結果、睡眠不足症候群に陥っており適切な睡眠指導で改善を得た症例5)や、睡眠時無呼吸症候群だと考えられていたのが、背後に逆流性食道炎を合併していたことが判明し内服治療のみで改善を得られた症例6)など、精密検査によって診断をつけ、治療へ繋がったケースが多くあります。
また、睡眠障害は発達障害児(広汎性発達障害:PDD、注意欠陥/多動性障害:ADHD、学習障害:LD)に合併しやすい事が知られていますが7)、睡眠障害を治療することによって情動行動が減少し、コミュニケーション、注意の問題、知覚過敏が改善し言語発達に繋がった症例も報告されています8)。
子どもの睡眠に悩まれている方は、是非、睡眠医療センターにご相談ください。

子どもの不眠症 (乳児・幼児の夜泣き、学童・思春期の不眠症など)

子どもの不眠症としては、生後6か月以降の夜泣き、2歳以降の寝ぐずり(行動性不眠症)、不適切な環境による不眠症、ストレスによる不眠症、発達障害に続発する不眠症などがあります。
まずは、睡眠を取り巻く環境(睡眠衛生)を整えることが必要となります。
就寝と起床時間がバラバラでないか、寝る前20~30分はある程度一定のスケジュールになっているか、静かで、居心地のよい寝室か、部屋の温度は暑くないか(24度以上)、寝る前2時間以内の食事やカフェイン(お茶や、チョコレートもカフェインが入っています)は摂取していないか、逆にお腹が空きすぎていないか…などをチェックしてみてください9)。
思春期以降の子どもの場合はアルコールやタバコの摂取、学校でのストレスにも注意が必要になります。
それでも改善が得られない場合は、薬物治療が適応になる可能性があります。また隠れている疾患がないか探す必要があります。
お困りの方は、遠慮なく当院までご相談ください。

子どもの過眠症 (睡眠不足症候群、ナルコレプシー)

通常、睡眠不足があれば日中眠気を感じます。しかし、学童期以降の場合、注意力散漫や成績低下、落ち着きの無さ、肥満などの睡眠不足の結果二次的に起こる症状に目を向けられてしまい、背景にある睡眠時間の問題は軽視されがちです。また、幼児の場合は過敏になったり衝動的になったりと、「元気な状態」と勘違いされ睡眠時間の不足に気づかれないことがあります。放置すると生活習慣病や対人関係の問題、学習障害、危険行動の増加など多岐に渡って悪影響を及ぼしますが、十分な睡眠を確保するだけで症状を軽減させることができます10)。
一方で、元々覚醒を維持するホルモンが低下することにより、日中に過剰に眠くなってしまう「ナルコレプシー」という疾患もあります。診断には、入院で行う睡眠検査(反復睡眠潜時テスト:MSLT)が必要になります。根治する方法は残念ながらありませんが、適切な睡眠指導や薬物療法によって、眠気による社会生活への不利益を最小限に留めることができます11)。
当院は都内でも数少ない、子どものMSLT検査も対応可能な大学病院です。

子どもの睡眠覚醒リズム障害 (夜型睡眠)

ヒトの体に内蔵された一日のリズムは、本来25時間程度と言われています13)。そのリズムを、食事や光などの外からの刺激を頼りに24時間に調整する事が必要です14)。
しかし、何らかの原因でその調整が上手くできない方がいます。特に思春期の子どもに多いと言われています。夜眠り、朝目覚めて日中活動することが出来なくなり、結果として日中体調が優れずずっと横になってしまう、学校のカリキュラムについていけなくなってしまう、不登校になってしまうなど深刻な社会問題を引き起こします。
この疾患は、薬物療法や高照度光療法などの治療が適応となります。ですが医療機関の協力の元、学校に午後からの保健室登校を許可してもらう、ご家族の起床時声掛けを工夫するなど小さなステップから症状の改善を得られる場合も多くあります15)。
他の睡眠障害にも言えることですが、この疾患に罹患されている方は自分自身を責めてしまいがちです。どうぞ、お一人で悩まずにご相談下さい。

子どもの睡眠時随伴症

睡眠中に起こる好ましくないイベントを総合し、睡眠時随伴症と呼びます。ノンレム睡眠 (深い睡眠)時に起こる夜驚症 (夜中に急に叫んで飛び起きる症状)、レム睡眠 (脳が覚醒している睡眠)に起こる悪夢症 (恐ろしい夢によって覚醒する症状)などがあります。どちらも、子どもの正常な発達の過程でよく起こる症状です。ほとんどのケースは無治療で自然に軽快しますが、ご本人やご家族の心身に強い負担をもたらすような場合は治療の対象になります。
また、睡眠中に身体が動くことによって眠りを妨げられる疾患もあります。代表的な疾患に「むずむず脚症候群」がありますが、この疾患は、背景に貧血が隠れていることがあります。また、てんかんでないかどうかを確認することも重要です16)。
これらの疾患が発見された際も、当院は小児科、神経内科、精神科など他科との連携も同施設内で行っており、直ちに適切な治療を導入することが可能です。
お困りの際は、いつでも当院へご相談ください。

参考文献

  1. Hirshkowitz M et al. National Sleep Foundation’s updated sleep duration recommendations: final report. Sleep Health. 2015; 1: 233-243.
  2. Mindell JA et al. Cross-cultural differences in infant and toddler sleep. Sleep Med. 2010; 11(3): 274-80.
    粂 和彦. 小児の睡眠関連疾患の理解に必要な基礎的事項. 睡眠医療. 2017; 11: 157-162
  3. 内山 真. 睡眠障害の概念と国際分類. 日本臨牀. 2013: 71; 17-28.
  4. 近藤 英明ら. 睡眠不足がMultiple Sleep:Latency Test(MSLT)に及ぼす影響について一MSLTでナルコレプシー様の検査結果を呈した睡眠不足症候群一. 睡眠医療. 2008; 2: 475-479.
  5. Seo WH et al. My child cannot breathe while sleeping: a report of three cases and review. BMC Pediatr. 2017; 17(1): 169.
  6. Stores G et al. Sleep disturbance of Development: its Significance and Management. Mac Keith Press, London, 2001
  7. Malow BA et al. Impact of treating sleep apnea in a child with autism spectrum disorder. Pediatr Neurol. 2006; 34(4): 325-8.
  8. Owens JA et al. Use of pharmacotherapy for insomnia in child psychiatry practice: A national survey. Sleep Med. 2010; 11(7): 692-700.
  9. 松澤 重行. 中枢性過眠症 1) 睡眠不足症候群. 睡眠医療. 2017; 11: 205-212.
  10. 篠邉 龍次郎. 「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン」 Available from http://jssr.jp/data/pdf/narcolepsy.pdf
  11. Bhattarai J et al. Current and Future Treatment Options for Narcolepsy: A Review. Sleep Sci. 2017; 10(1): 19-27.
  12. 山仲 勇二郎ら. 睡眠・リズム障害の分子機構. 2008; 11(4): 418-432.
  13. 北島 岡司. 概日リズム睡眠・覚醒障害. 臨林と研究. 2015; 92(9): 1135-1138.
  14. 駒田 陽子ら. 概日リズム睡眠覚醒異常症群-social jetlagも含めてー. 睡眠医療. 2017; 11: 221-227.
  15. 井上 雄一. 睡眠時随伴症をめぐって. 睡眠医療. 2016; 10: 297-302.