大人の睡眠障害
睡眠について
現在、日本では5人に1人が何らかの睡眠の問題を抱えていると言われています。人口の高齢化によって、この頻度は一層増えていくと言われています。また睡眠のトラブルは、日中の生活の質を低下させるだけはなく、生活習慣病やうつ病のリスクになる事も明らかになっています。
一口に「睡眠のトラブル」と言っても、その原因となる疾患は多岐に渡ります。疾患によっては、睡眠専門施設でなければ診断が困難なものもあります1)。
睡眠のトラブルとその原因
眠れない
寝つきが悪い:生活習慣に伴うもの、不安や緊張に伴うもの、むずむず脚症候群
眠りを維持できない:生活習慣に伴うもの、睡眠時無呼吸症候群、周期性四肢運動障害
早朝に目覚めてしまう:加齢に伴うもの、うつ病
寝すぎる、眠い2)
睡眠不足に伴うもの:生活習慣に伴うもの、睡眠不足症候群、不眠症、睡眠時無呼吸症候群、周期性四肢運動障害、むずむず脚症候群
覚醒維持困難によるもの:ナルコレプシー、特発性過眠症、反復関連過眠症、月経関連過眠症
睡眠リズムがずれたことによるもの:シフトワークによるもの、時差によるもの、概日リズム睡眠障害
これらの疾患の中には、終夜睡眠ポリソムノグラフ(PSG)や睡眠潜時反復検査(MSLT)など、専門施設での精密検査でないと診断ができないものもあります。
お悩みの際は、お気軽に当院までご相談にいらして下さい。
睡眠衛生
睡眠のトラブルにお困りの際は、まずご自身の生活習慣や睡眠環境を整えることが必要となります3)。これを、「睡眠衛生」といいます。2014年に厚生労働省が発表した健康づくりのための睡眠対策をご参考ください4)。
健康づくりのための睡眠指針 2014
~睡眠12箇条~
1.良い睡眠で、からだもこころも健康に。
2.適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。
3.良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。
4.睡眠による休養感は、こころの健康に重要です。
5.年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を。
6.良い睡眠のためには、環境づくりも重要です。
7.若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。
8.勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。
9.熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。
10.眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない。
11.いつもと違う睡眠には、要注意。
12.眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。
もちろん、十分に睡眠衛生に気を付けても改善しない睡眠障害もあります。その際は、睡眠専門機関の介入が必要になりますので、当センターへご相談ください。
睡眠時無呼吸症候群
近年、長距離バスや新幹線運転手の居眠りにより発生した重大事故に関するニュースを見聞きされたことがあると思います。その運転手が、実は睡眠時無呼吸症候群を患っていたことで、しばしばメディアでも取り上げられる疾患です。
睡眠疾患の中でも大きな割合を示す病気であり、アメリカの研究によると、中高年の健常人のうち、女性は9%、男性は24%もの人に睡眠時無呼吸症候群の所見があったと報告されています5)。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸をしようとしているにも関わらず、口から気管にかけての空気の通り道(=上気道)が詰まってしまい、睡眠の質が悪くなってしまったり、体の中の酸素濃度が下がってしまう病気です。日本人は欧米人に比べ顎が小さいので、睡眠時無呼吸症候群になりやすい事が分かっています。
放置すると、日中の集中力の低下、起床時の頭痛、口の渇き、インポテンツなど様々な症状が出てきます。職業ドライバーの場合、居眠り運転により重大事故に繋がる恐れがあるので大変危険です。
また、長い間放置することで、高血圧、糖尿病、脂質異常症、脳血管障害、心臓麻痺などの原因にもなります。
診断は、睡眠専門施設で行われる「終夜睡眠ポリグラフ(PSG)」という入院検査が必要になります。
肥満患者の場合、まずは減量が必要ですが、急激に減量するのは危険なため、マウスピースや経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)というマスクの治療が適応になります6)。
詳しい内容は睡眠時無呼吸症候群をご覧ください。
睡眠時随伴症(パラソムニア)
睡眠中に、歩いたり食べたり暴れたりといった好ましくない行動をしてしまう病気のことをまとめて睡眠時随伴症といいます。いわゆる「夜驚症(夜中に突然叫ぶ)」や「夢遊病」もこれにあたります。子どもに多く、ほとんどは自然に治りますが、成人でも発症します。症状が酷いと怪我をしたり、一緒に寝ている人に危害を加えたりするので注意が必要です。正常な睡眠状態を維持できなかったり、睡眠中に身体を休息させるシステムがうまく作動しないことによって発症します。
診断には、ビデオ撮影を含めた終夜睡眠ポリソムノグラフ(PSG)検査が必要です。
まずは睡眠衛生を整えることから治療を始めますが、改善がなかった場合は薬物療法を使うこともあります7)。
過眠症(ナルコレプシー、特発性過眠症)
睡眠衛生も良好であり、睡眠時間も十分に取れているにもかかわらず日中に過剰な眠気を認める場合は、この過眠症の可能性があります。過眠症のうち、ナルコレプシーについては日中の眠気の他に、感動したり笑ったりするのがきっかけで体の力が抜けて倒れそうになる(脱力発作)、いつの間にか寝てしまう(睡眠発作)、金縛り(睡眠麻痺)や寝がけの幻覚(入眠時幻覚)などを認めることがあります。これは、身体の中の睡眠をコントロールするホルモンが人より少ないため起こる病気です。診断には、睡眠潜時反復検査(MSLT)という精密検査が必要になります。適切な薬物療法と睡眠衛生指導によって日常生活を正常に送ることが目指せます8)。
むずむず脚症候群(レストレスレッグズ症候群)
むずむず脚症候群とは、眠るときの不快な感覚のため脚を動かしたくなる衝動にかられ、そのため上手く眠る事が出来なくなる病気です。必ずしもむずむずする訳ではなく、虫が這うような感じ、チクチク、痛い、暑い、だるい、何とも言えない嫌な感じ・・・など多彩な症状が出てきます。メカニズムが完全に解明されたわけではないのですが、貧血に伴って発症する事があります。主に症状によって診断できますが、終夜睡眠ポリソムノグラフ(PSG)検査を行うこともあります。まずは原因となっている貧血の治療をしたり、持病の薬や生活習慣で原因となりそうな所を見直します。それでも改善が得られない場合は、薬物療法で治療をします9)。
参考文献
- 内山 真ら. 睡眠障害. 臨牀と研究. 2016; 93 (5): 615-620.
- 佐藤 幹ら. 過眠症. 臨牀と研究. 2012; 89 (6): 742-748.
- 宮崎 総一郎ら. 正常な睡眠・覚醒のサーカディアン・リズムを取り戻そう-睡眠衛生指導の実際. 医学のあゆみ. 2012; 242 (11): 861-867.
- 厚生労働省健康局. 健康づくりのための睡眠指針 2014. Available from http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/
- Young T et al. The occurrence of sleep-disordered breathing among middle-aged adults. N Engl J Med. 1993; 328(17): 1230-5.
- 安達 太郎ら. 内科疾患 最新の治療 ~明日への指針~. 内科. 2014; 113(6):
- 井上 雄一. 睡眠時随伴症をめぐって. 睡眠医療. 2016: 10; 297-302.
- 小鳥居望ら. 過眠障害(ナルコレプシータイプ1を中心に). 臨床精神医学. 2016; 45: 334-337.
- 宮本 雅之. 高齢者の睡眠運動関連障害群~レストレスレッグズ症候群を中心に~. Pharma Medica. 2017; 35 (3): 23-28.