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睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群とは

睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸をしようとしているのも関わらず、空気の通り道(気道)が詰まってしまい、寝ている間に呼吸が止まってしまう病気です。心不全などの合併症として、寝ている間に脳の呼吸を促す部分からの信号が止まってしまい、呼吸が出来なくなってしまうタイプもありますが、ほとんどは空気の通り道が詰まってしまうことによって起こります1)。

睡眠時無呼吸症候群の症状

夜間のいびき、無呼吸

人は起きている時、舌の筋肉や気道の筋肉が緊張して硬くなっています。しかし、睡眠中はこれらの筋肉が弛緩(力が抜け、だらっとした状態)します。結果として空気の通り道が狭くなり、空気が入るときに「ぐー、ぐー」と音が生じるのです。これがいびきの発生するメカニズムになります。肥満や、顎が小さい人は空気の通り道が非常に狭くなり、パートナーが眠れないほどの大きないびきになります。また、酷い場合は空気の通り道が完全に詰まってしまい、呼吸が止まってしまいます。
睡眠時無呼吸症候群の一番の症状は、こうした睡眠中のいびきや、無呼吸になります2)。

日中の眠気、集中力低下

夜間のいびきや無呼吸が続くことにより、睡眠の質や量が落ちてきます。結果として慢性的に睡眠不足の状態になり、日中の眠気が出てきます。一方で、睡眠時無呼吸症候群の日中の症状は少しずつ出てくるため、集中力の低下や朝起きたときの頭痛など、必ずしも「眠気」として出てこないこともあります1)。この場合、ご本人が「疲れているためだ」と考えてしまい、背後の睡眠時無呼吸症候群に気づかれていないケースが多くあるのです3)。後述するように、睡眠時無呼吸症候群は放置すると重大な交通事故や心血管障害など様々な悪影響が出てくる病気なので、これらの症状を見過ごさず、専門の医療機関を受診していただくことが重要です。

肥満と睡眠時無呼吸症候群

肥満は、睡眠や呼吸に関連した病気と深い関係にあります。全身に脂肪が沈着することによって、様々な悪影響が出てくるからです。例えば、空気の通り道(気道)に脂肪が沈着することによって特に睡眠時に空気の通り道が狭くなったり詰まったりします4)。結果、睡眠時無呼吸症候群を引き起こします。肥満者の50%以上に睡眠時無呼吸症候群があると言われており5)、肥満の方は背後に睡眠時無呼吸症候群が隠れていないかチェックする事が重要です。また、睡眠不足によって食事の量が増えてしまうことも報告されており6)、肥満と睡眠時無呼吸症候群はお互いに悪循環を及ぼす可能性があります。肥満に伴う睡眠時無呼吸症候群は、減量が成功するまでの間、適切な治療を導入する事が必要です。

睡眠時無呼吸症候群の合併症と予後

睡眠時無呼吸症候群による事故

睡眠時無呼吸症候群はさまざまな合併症のリスクとなるだけなく、集中力や作業効率に影響することによって職場での事故の原因の元となりますa)。特に運転の仕事をする人に対しての影響は深刻で、男性運転者の起こす全交通事故のうち、7%に睡眠時無呼吸症候群が関与していたという報告もある程ですb)。実際に、平成15年に起こった新幹線の居眠り事故を始めとして、睡眠時無呼吸症候群が原因となった数多くの交通事故(死亡事故含め)が発生しています。例え睡眠時無呼吸症候群と診断されたとしても、適切な治療をすることでこう言った事故のリスクを健常人と変わらないレベルまで下げることができますc)。職場の健診で睡眠時無呼吸症候群の可能性があるといわれた場合は、放置せず、専門の医療機関を受診するようにしてください。

睡眠時無呼吸症候群の検査

睡眠時無呼吸症候群の診断のためには、モニター検査が必要です。モニターには簡易無呼吸モニターと終夜睡眠ポリグラフィー検査の2種類があります。簡易無呼吸モニターは自宅で、ご自身でセンサーを付けていただいて行う検査です。呼吸の評価が出来る一方で、睡眠の評価はできない検査のため、これだけでは診断が出来ない場合もあります。その場合は、終夜睡眠ポリグラフィ検査を行います。脳波、眼球運動、顎の筋肉のモニターで睡眠の評価を行い、鼻口の気流、胸の動き、指の酸素濃度のモニターで呼吸の評価を行います。さらにマイクを使っていびきを評価したり、心電図や脚の筋肉のモニターも使います。一度にたくさんのモニターを使うので病院に一泊入院する必要があるますが、睡眠時無呼吸症候群の正確な診断が可能であり、治療方針を決定するうえで最も重要な検査になります。
当院では6階の特別室にポリソムノグラフィー専用の個室をご用意しております。通常の入院と違い、個室料は頂戴しておりませんのでご安心ください。

睡眠時無呼吸症候群の治療

肥満が原因の場合、減量が大前提ですが、無呼吸が軽減するためには10kg以上の減量が必要だといわれており、急激な減量が難しい場合もあります。その際は、口腔内装置(oral appliance; OA)や経鼻的持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure; CPAP)療法を導入します。
OAは上顎より下顎を前に移動させた状態で固定させることにより、空気の通り道を確保する治療法です。軽症から中等症の患者さんが適応となります。
CPAP療法は、鼻マスクなどを使って、空気の通り道に一定の圧力をかける方法です。

咽頭から肺までの下気道は軟骨を有するため気道は閉塞しにくいが、鼻から咽頭までの上気道は咽頭筋群などの軟部組織で腔構造を構成しているため睡眠による筋のトーヌスが低下すると吸気努力によって生じる陰圧や重力の影響で閉塞しやすくなる。また飲酒後やREM睡眠時にはさらに筋の緊張が低下し上気道の閉塞を来しやすい。CPAP療法とは、鼻マスクなどのインターフェイスを介して一定の圧力を気道に送り込み気道を開存させOSAを治療する方法で、1981年にSullivanら 5 が初めてOSASに対するCPAP療法の有用性を報告した。日中の眠気などの自覚症状があるうえで、PSGにおいてAHIが20回/時以上、さらに脳波で睡眠が分断されていることが確認できた場合に保険適用となり、また簡易無呼吸モニターでAHIが40回/時以上で自覚症状がある場合はPSGを施行しなくても保険適応となる 6 。
CPAP装置はマスク、送気回路、本体、電源ユニットから構成されている(図3b)。マスクは鼻マスクタイプといわれる鼻全体をシリコン製のクッションで覆うタイプが主流である。また本体は1kg程度の重さで、CPAP圧を自動で調節するオートCPAP機能、使用状況や治療圧、リーク量、治療効果を記録する機能などが内蔵されている装置が主流である。
設定圧はCPAP機器にて自動で圧を調節するオートCPAPを使用することにより体位や日々の体調などで変化する無呼吸の程度に対応することが可能である。CPAP導入直後は、CPAPの違和感、マスクの圧迫感などを理由に継続使用ができない(忍容性が悪い)ことがあるのでCPAP装置の使用法やマスクの装着法、日常の点検、メンテナンス方法だけではなく、CPAP療法の必要性と意義、継続の必要性的に難しいため経鼻的持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure; CPAP)療法(図2a)や口腔内装置(oral appliance; OA)(図3a, 図3b)など非薬物療法を導入する。扁桃肥大が原因と考えられる場合は口蓋扁桃摘出術を考慮する。

参考文献

 

  1. 安達 太郎ら. 内科疾患 最新の治療 ~明日への指針~. 内科. 2014: 113(6);
  2. 陳 和夫. 睡眠呼吸障害のメ力ニズム. MB Med Reha. 2016: 203; 98-104.
  3. 三好 規子ら. 職域における睡眠時無呼吸症候群(SAS)の早期発見・早期治療の意義. 日職災医誌. 2018: 66; 1-10.
  4. 安達 太郎ら. 肥満症診療最前線4. 睡眠時無呼吸症候群. Modern Physician. 2015: 35; 199-202.
  5. Esta O et al. Sleep-related breathing disorders, loud snoring and excessive daytime sleepiness in obese subjects. Int J Obes Relat Metab Disord. 2001: 25: 669-675.
  6. Calvin AD et al. Effects of experimental sleep restriction on caloric intake and activity energy expenditure. Chest. 2013: 144; 79-86.
  7. 木村 真奈美ら. 交通機関での睡眠呼吸障害検診の必要性と手法. 睡眠医療. 2017: 11; 371-379.
  8. Garbarino S et al. Motor vehicle accidents and obstructive sleep apnea syndrome: amethodology to calculate the related burden of injuries. Chron Respir Dis. 2015: 12; 320-328.
  9. Burks SV et al. Nonadherence with employer-mandated sleep apnea treatment and increased risk of serious truck crashes. Sleep. 2016: 39; 967-975.